東京高等裁判所 昭和29年(う)3610号 判決
被告人 細木武士
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点及び被告人本人の論旨中事実誤認の主張について。
原判決の判示事実中一、及び二、の各詐欺の事実は、いずれも原判決援用の各関係証拠によつて、これを肯認することができ、記録を精査してみても、この点に関する原判決の認定に誤があることを窺うに足りない。しかしながら、原判示三の覚せい剤取締法違反の犯罪事実については、原判決は、昭和二十九年三月ごろから同年七月ごろまでの間は、十数回にわたつて行われた覚せい剤注射液合計六十本位の譲り受けの事実を認定しているのであるが、右判示の期間中である昭和二十九年六月十二日に、覚せい剤取締法の一部を改正する法律が公布され、即日施行された結果、法定刑が変更されたけれども、同法律の附則第二項により、右改正前の行為に対しては、従前の罰則が適用される関係上、右六月十二日以後の犯罪行為と同日以前の犯罪行為とが、それぞれ別罪を構成する場合には、両者は明らかにこれを区別して認定判示することを要するものと解すべきところ、原判決挙示の関係証拠中には、単に、昭和二十九年六月中旬とのみ記載されていて、右中旬とあるのが、前示改正の前であるか後であるか不明であるばかりでなく、記録を調べてみても、これを明らかにすることのできる資料を発見することができないのであるから原審においては、この点につき、更に審理を尽して、これを明らかにする必要があつたものと考えられ従つて、これを明らかにすることなくして、漫然「昭和二十九年三月頃から同年七月頃までの間前後十数回位に云々」と判示している原判決には、この点につき審理を尽くさない結果、理由不備の違法があるものというべく、原判決は、この点において到底破棄を免れないから、論旨は結局理由があることに帰する。